(そんな……、アルカディア宮殿が炎に…………)
フェリシアが炎に驚き動揺すると、シルヴィオの式神の姿が徐々に薄くなっていく。(この現象はアベルさんの式神の時に見た、力を使い果たす前のものと同じ)「シルヴィオさん、あのっ……」「限界に達したようですが間に合って良かった」「主が参りましたのでこれにて。ご武運を祈っております」シルヴィオの式神は消滅した。するとシルヴィオがフェリシアの元まで駆けて来る。「シルヴィオさん、お会い出来て良かった……」「はい。フェリシア様、無事に到着されたようで何より」「現在、正面扉側は魔に支配されている為、こちらの来賓用の扉側から宮殿の中に入ります。ここもいつ魔に支配されるか分かりません。ですので早く移動しましょう」シルヴィオが返し、共に移動しようとした時だった。ドガァァアアン!突如、爆音と共に、アルカディア宮殿が爆発する。フェリシアはシルヴィオに両肩を掴まれ、共に伏せる体制となり、シルヴィオが瞬時に張った結界によって守られる。「フェリシア様、大丈夫ですか?」「はい」「まさか牢が爆発するとは……」牢が、爆発?(つまり、もうご主人さまは…………)「あ……、あ……」「ご主人、さま……い、や……」「嫌ああああぁぁぁぁっ……!!」フェリシアが悲鳴を上げると、シルヴィオが両肩を掴んだまま起こし、見つめる。「落ち着いて下さい。エルバートは生きています」「え、生き、て?」「はい。あいつのことです。恐らく、脱出したのかと」脱出。そうだ、あのエルバートが牢に囚われたまま、終わる訳など(そんな……、アルカディア宮殿が炎に…………)フェリシアが炎に驚き動揺すると、シルヴィオの式神の姿が徐々に薄くなっていく。(この現象はアベルさんの式神の時に見た、力を使い果たす前のものと同じ)「シルヴィオさん、あのっ……」「限界に達したようですが間に合って良かった」「主が参りましたのでこれにて。ご武運を祈っております」シルヴィオの式神は消滅した。するとシルヴィオがフェリシアの元まで駆けて来る。「シルヴィオさん、お会い出来て良かった……」「はい。フェリシア様、無事に到着されたようで何より」「現在、正面扉側は魔に支配されている為、こちらの来賓用の扉側から宮殿の中に入ります。ここもいつ魔に支配されるか分かりません。ですので早く移動しましょう」シルヴィオが返し、共に移動しようとした時だった。ドガァァアアン!突如、爆音と共に、アルカディア宮殿が爆発する。フェリシアはシルヴィオに両肩を掴まれ、共に伏せる体制となり、シルヴィオが瞬時に張った結界によって守られる。「フェリシア様、大丈夫ですか?」「はい」「まさか牢が爆発するとは……」牢が、爆発?(つまり、もうご主人さまは…………)「あ……、あ……」「ご主人、さま……い、や……」「嫌ああああぁぁぁぁっ……!!」フェリシアが悲鳴を上げると、シルヴィオが両肩を掴んだまま起こし、見つめる。「落ち着いて下さい。エルバートは生きています」「え、生き、て?」「はい。あいつのことです。恐らく、脱出したのかと」脱出。そうだ、あのエルバートが牢に囚われたまま、終わる訳など
そして、如月の中旬の朝。ブラン公爵邸の中庭の入口から白くなった月を見つめるのを少しの間許され、フェリシアは見つめていると突然、顔が整った青年が目の前まで飛んでくる。青年は軍服を着ていてシルヴィオに瓜二つだけれど、こんな時間にここに来るはずかない。「貴方はもしかして……」「はい、俺はシルヴィオの式神です」「主の命令で飛んで参りました」シルヴィオの式神が答えると、リリーシャが自分の名を呼び、慌てて駆けて来て、フェリシアの隣に並ぶ。するとシルヴィオの式神が口を開く。「現在、帝都に魔が複数現れ、アルカディア宮殿までも魔に支配され、混乱状態にあります」シルヴィオの式神に衝撃的な現状を聞かされ、フェリシアとリリーシャは固まる。「その為、アベルとカイが軍を連れ帝都へ、宮殿内は皇帝の側近、ゼイン殿下、クランドール閣下、ディアム様、ユナイト様が対応しておられます」「ご主人さまは大丈夫なのでしょうか?」フェリシアは問いかける。「主が呼び捨ての為、自分も呼び捨てに致しますが、エルバートは牢でユナイト様の右肩の回復の治療を受けたとはいえど、現状、命さえ危うい状況だと言わざるを得ません」「そん、な……」フェリシアは口を両手で覆う。「されど、エルバートは主のライバルゆえ、自分の手で倒す以外命を失うなど容赦しないとのこと」「よって、どうか祓い姫の貴女のお力をお貸し頂きたい」(ご主人さまの元へ向かいたい。けれど……)悩んでいると、リリーシャに右肩をぽんと叩かれる。「エルバート様の危機とあらば、許す他ないですね」「私達も後で向かいますから、フェリシア様は先に向って下さい」フェリシアは涙ぐみながら頷く。「分かりました。わたしを今すぐアルカディア宮殿まで連れて行って頂けますか?」「勿論。その為に飛んで参ったのですから」「ではフェリシア様、左肩を掴んで下さい」フェリシアは右手を伸ばし、左肩を掴む。す
* * *眠れないフェリシアはベットの上でぼんやりしていた。アルカディア宮殿の近くで倒れ、翌日の朝には目を覚ましたものの、酷くうなされていたようで、しばらくの絶対安静をディアムに強いられ、今宵もベットで寝ているしかなく、エルバートへの想いを馳せる。『あぁ、料理が美味かったからだ、白く美しい花も皿にいつも添えていた』『フェリシア、命懸けで家を守ってくれたこと、礼を言う』『私がフェリシアにここで共に暮らして欲しいんだが?』『フェリシア、お前は正真正銘、私の正式な花嫁候補だ』『満月の深夜だけこうやって満開に咲くんだ。綺麗だろう?』『――――好きだ』『そんな顔をするな。宮殿の月はここよりももっと綺麗だ』『お前のブローチが私の命を守ってくれた』『フェリシア、今宵、月を見よう』脳裏にエルバートとのこれまでの思い出が浮かび、そして。『では、行ってくる』エルバートの最後の言葉と顔が浮かぶ度、ただただ大粒の涙だけが零れ、想いがあふれ出るように涙が止まらない。けれど、泣いてばかりではいられない。(アベルさんの治療を受けたとはいえ、ご主人さまが受けた右肩の傷はきっと深い)(このままでは、ご主人さまのお命が危うい)フェリシアは翌日の朝。部屋にクォーツを呼ぶと、ベットから起き上がる。「フェリシア様、まだ寝ていないと」「クォーツさん、教会に戻って来ているユナイト教官にご主人さまの右肩の回復をお願いして来て頂けないでしょうか?」「お願い、致します」フェリシアはくらっとし、クォーツが体を支える。「フェリシア様!」「分かりましたから、さあ、ベットに」フェリシアはクォーツに寝かされる。「それでは、至急、お願いして参ります」クォーツが急ぎ部屋を出て行くと、フェリシアはエルバートを想い、祈り続けた。
そして数日が経った頃。ルークス皇帝の側近、リンクとゼインがエルバートの元を訪れた。「ルークス皇帝がエルバート軍師長をこのような目に合わせるなどおかしいと思っておりましたが、まさか、魔に乗っ取られていたとは……」ルークス皇帝の側近が動揺の声を出す。「しかしながら、魔に乗っ取られた者を助けられた事例はこれまでに一つもなく、前皇帝も亡き者となった。つまり、私共が出来ることはただ一つ」「ルークス皇帝にお隠れ頂くしかないということです」ルークス皇帝の側近が事実を述べると、ゼインは俯き、両目に前髪がかかる。「エルバート様のせいです」「ルークス皇帝は明らかにフェリシア嬢をお慕いしていた」ゼインの言葉を聞き、エルバートの瞳が揺らぐ。「けれど、貴方の存在があるから、お心を押し殺すしかなく、その隙を突かれ、魔に乗っ取られた。私はそう思います」ゼインが話し終えると、ルークス皇帝の側近は両目を瞑り辛辣な顔を浮かべる。どことなく気づいていた。分かっていた。ルークス皇帝がフェリシアに向けるひたすらな秘めき想いを。だが、フェリシアを渡すことなど決して出来ず、ルークス皇帝が発した言葉を信じる他なかった。しかし、その心の甘さがこの最悪な事態を招いた。ルークス皇帝の側近は両目を開け、エルバートを見据える。「ルークス皇帝は公務で多忙を極めており、空くのは月替わりした如月の中旬」「よって、この如月の中旬に私とゼイン殿下、そしてクランドール閣下にも協力を得てルークス皇帝にはこの世からお隠れ頂きます」ルークス皇帝の側近の強き宣言にエルバートは言葉を失い、反論すら出来ない。ルークス皇帝はゼインと共に牢から出て行った。そしてエルバートはこの日の夜、ディアムが持ってきた温かいクリームスープを口にするも味を感じず、眠ることさえも出来ず、ルークス皇帝との日々を思い返す。ルークスが皇帝になる前の6歳の頃、前皇帝が魔によって亡くなった。自分はこの時7歳で、アルカディア宮殿の寝室で酷く落ち込むルークスを立たせ、共に窓から
追いついたリリーシャがディアムの言葉を聞いた瞬間、立ち止まる。フェリシアもまた、両目を見開き、動揺する。「しまった、エルバート様から口止めされていたのに」(優しく穏やかな雰囲気のルークス皇帝がずっと支えて来たご主人さまに汚名を着せたことに違和感を覚えていた)(でも、ルークス皇帝が魔に乗っ取られたのなら、ご主人さまに対する態度や仕打ちも頷ける)けれど。「ルークス皇帝が、魔に? そん、な、どうして…………?」フェリシアは問い返すとハッとする。「以前に宮殿でルークス皇帝が祓い姫の伝説の逸話があり、その祓い姫も魔によく狙われていたと仰って……」「つまり、祓い姫であるわたしがルークス皇帝に近づいたから魔を呼び寄せた……」「ルークス皇帝が魔に乗っ取られたのは」「わたしの、せい」フェリシアの両目から、ぽろ、と涙が零れ落ちる。「ご主人さまが牢屋に入ることになったのもわたしの……」「フェリシア様、違います!」「リリーシャの言う通りです。貴女のせいでは」リリーシャに続き、ディアムが庇う。けれど、自分を責めずにはいられない。「あ……、う……」「ご主人、さま……」「わああああぁぁぁぁ……」フェリシアは両手を地面に突き、宮殿を見つめたまま、泣き崩れた。涙は止まることを知らず、徐々に宮殿がぼやけ、フェリシアは意識を失い、地面に倒れた。* * *その日の夜。目覚めたエルバートは寒々とした牢屋の中、フェリシアの身を案じていた。アルカディア宮殿に高貴な馬で戻って来たディアムから先程聞かされたが、フェリシアは宮殿近くで倒れ、ディアムとリリーシャが馬車まで運び、クォーツが御者をし、ブラン公爵邸まで帰り、今も眠ったままだという。
それからしばらく馬車に揺られ、その場所に到着し停止すると、フェリシアは馬車の中からアルカディア宮殿を見つめる。(あの宮殿の牢にご主人さまがいる)それなのに、やっぱり、ただ黙ってここで見つめ続けることは出来ない。フェリシアは耐えきれず言いつけを破り、とっさにリリーシャとは反対側の扉を開け、馬車から飛び出す。「フェリシア様!!」後ろからリリーシャとクォーツの名を呼ぶ声が響き、リリーシャとクォーツが自分の横の扉をそれぞれ開け、馬車から飛び出す姿が見えるもフェリシアは前を向き、アルカディア宮殿に向け、全力で駆けていく。すると。「クォーツ、馬車をお願いします!」「フェリシア様!!」後ろからディアムの必死な声が響き、こちらに向けて駆けてくる足音が聞こえた。振り返る余裕はないけれど、先程のディアムの言葉とふたつの足音から、恐らく、ディアムは馬車から飛び降り、リリーシャもまた馬車から降り、自分を追いかけて来ているのだろう。しかし、ここでふたりに捕まる訳にはいかない。エルバートの元まで助けに行かねばならないのだから。(ご主人さま、ご主人さま、ご主人さま!)フェリシアは必死に駆けながら、エルバートのことを心の中で何度も呼ぶ。けれど。「フェリシア様!!」ディアムの名を呼ぶ声がすぐ後ろから聞こえ、追いつかれたと思った瞬間、フェリシアは左腕を掴まれた。「馬車から勝手に飛び出して、何かあったらどうするおつもりですか!?」「いやっ! ディアムさん、放して!」「放しません! さあ、早く馬車へ」「わたしは決して戻りません!」フェリシアはディアムの左腕を振り払い地面に座り込むと、ドレスのブローチを右手で掴む。そして、「ル」と唱えようとした時だった。ディアムに両肩を持たれ、地面に押し付けられそうになり、両手を地面に突く。「どれだけ抵抗されようとも貴女をアルカディア宮殿には絶対に行かせられません!」「ルークス皇帝が、魔に乗っ取られているのです!」